
最初に見たのは、
電柱に貼ってあった小さいチラシだった。
男女警備スタッフ大大大募集!!!
未経験歓迎
笑顔で見守るお仕事です
端っこに、白と黒の丸い顔。
パンダっぽいけど、目がやけに黒い。
連絡先はQRコードだけ。
電話番号はない。
その頃、俺は仕事を辞めたばかりだった。
資格もないし、貯金もあまりない。
夜勤は平気だし、警備ならできそうな気がした。
何より、時給がちょっと高すぎるくらい高い。
まあ、いいか。
俺はQRコードを読み込んだ。
⸻
画面は真っ黒。
数秒たって、文字が出る。
「こちらを見てください。」
急にカメラが起動する。
自分の顔が映る。
読み込みバーがゆっくり進む。
「適性測定中」
まだ名前も住所も入力していないのに。
ちょっと気持ち悪いな、と思ったけど、
そのまま画面は消えた。
⸻
次の日、メールが届く。
件名:採用のお知らせ
履歴書も送っていない。
面接もしていない。
本文は一行だけ。
「あなたは、ちょうど良い。」
何が?
そう思ったけど、
俺は指定された場所に行くことにした。
⸻
駅前の再開発エリア。
新しいビル。白い外壁に黒い窓枠。
入口にロゴがある。
丸い顔。
その下に書いてある。
「均衡を守る仕事です。」
なんか難しそうだけど、
警備ってそういうものかもしれない。
⸻
初出勤の日。
事務所には誰もいない。
机の上に制服が置いてある。
サイズもぴったり。
名札には俺の名前。
でも裏返すと、
知らない名前が彫ってある。
見覚えがある気がする。
でも思い出せない。
まあいいか、と胸につけた。
⸻
仕事は単純だった。
出入口に立って、
人の流れを整える。
混みそうなら止める。
空いたら流す。
それだけ。
でも、不思議なことがあった。
無線が入る。
「要観察。」
見ると、特に怪しくない人。
ただ、ちょっとだけ変。
歩き方がほんの少しズレている。
笑うタイミングが半拍遅い。
肩の高さが微妙に違う。
ほんの少しだけ。
⸻
三日目。
無線が鳴る。
「要観察:あなた。」
え?
周りを見る。
他の警備員は動かない。
みんな同じ制服。
同じ笑顔。
目の周りが、少し黒い。
ガラスに映る自分を見る。
目の下にうっすら影がある。
昨日より濃い。
丸く、囲むみたいに。
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「均衡未達。」
無線が言う。
俺の立ち位置がズレているらしい。
一歩、右へ動く。
「均衡達成。」
その瞬間、
人の流れがぴたりと揃う。
エスカレーターの間隔。
歩幅。
笑うタイミング。
全部、きれいに揃う。
ちょっと怖いけど、
なんだか気持ちいい。
⸻
ある夜、監視室に呼ばれた。
モニターに街が映っている。
駅前、商店街、公園。
あちこちにパンダ警備員が立っている。
よく見ると、
どの顔も俺に似ている。
角度が少し違うだけ。
「募集は終わらない。」
後ろから声。
振り向くと、
名札の裏にあった名前の男が立っていた。
目の周りが真っ黒。
「均衡を保つには、数がいる。」
モニターの中で、
新しいチラシが貼られる。
男女警備スタッフ大大大募集
誰かがQRコードを読み込む。
カメラが起動する。
「ちょうど良い。」
また一人、選ばれる。
⸻
無線が鳴る。
「交代時刻。」
目の前に、スーツ姿の男が立っている。
少し不安そうな顔。
目の周りは、まだ白い。
少しズレている。
俺は穏やかに笑う。
左右ぴったり同じ角度で。
「大丈夫です。」
「すぐ慣れますよ。」
⸻
翌朝、街はいつも通り。
事故もトラブルもない。
白と黒の制服が、あちこちに立っている。
丸い目で、静かに見守る。
⸻
電柱には、また新しいチラシ。
あなたは、見られる側ですか?
それとも、見守る側ですか?
QRコードが、ゆっくり点滅している。
俺はそれを、
ちゃんと同じ角度で見つめている。
今日も1日御安全に!!!🐼