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2026/03/25徳島百点会・白線の向こう側にいた男①

最初は、よくある営業だった。

名前は大和田獏郎。

やたら愛想がよくて、やたら人の懐に入るのがうまい。

「現場のこと、わかってますよ」

その一言で、なぜか皆、少しだけ心を開いた。

パンダ警備に来たのは、夏頃だった。

最初の1週間は完璧だった。

現場に顔を出し、隊員の名前を覚え、缶コーヒーを差し入れる。

林田ですら「あいつ、使えるな」と言った。

だが、2週間目から妙なことが起き始めた。

大和田は、現場に来なくなった。

代わりに、隊員のスマホにメッセージが届く。

「もっといい条件の現場、紹介できますよ」

最初は冗談だと思った。

だが、一人、また一人と姿を消していく。

沼田が言った。

「妙やな…辞め方が静かすぎる」

普通は文句の一つも出る。

だが今回は違った。

誰も何も言わずに、いなくなる。

まるで“最初からいなかった”みたいに。

3週間後。

パンダ警備のシフト表は、穴だらけになっていた。

12人。いや、13人。

ベテランも新人も関係なく消えた。

残ったのは、数人だけ。

林田は怒鳴った。

「大和田どこや!!呼んでこい!!」

だが、誰も答えられなかった。

そもそも——

大和田の“所属部署”を、誰も知らなかった。

調べてみると、履歴書はあった。

だが、写真が妙だった。

顔が、少しぼやけている。

目がどこを向いているのか。

右目は右過ぎ。

左目は左過ぎ。

いや、違う。

見るたびに印象が変わる。

ある時は優しそうで、

ある時は冷たく、

ある時は——最初から存在しない顔だった。

その頃、街では妙な噂が流れていた。

「白線の上で働く人間を、黒い場所に連れていく男がいる」

少し変わった採用条件だった。

秘密を守れるか?

給料も、環境も、何もかも全てに対して、、。

何のことですか?と、

とぼけられるか。

嘘がすこぶるうまいか。

人の悪口を平気で言いあえるか。

陰湿さを維持出来るか?

週一回のミーティングに休みなく参加出来るか?

ミドリガメは好きか?

どれもこれもよくわからない条件だった。

ある夜。

森岡が言った。

「俺、連絡きてるんすよ…大和田から」

全員が静まった。

「行くんか?」

森岡は少し笑った。

「いや…でも、一回話だけでも…」

その時、沼田が珍しく強く言った。

「やめとけ」

空気が重くなる。

沼田は続けた。

「わしな、昔…ああいうの、見たことある」

「人を“条件”で釣るんやない。

 “居場所”ごと持っていくやつや」

次の日。

森岡は来なかった。

そして奇妙なことが起きた。

シフト表から、森岡の名前が消えていた。

最初からいなかったかのように。

写真も、連絡先も、記録も——

全部。

最後に残った林田が呟いた。

「大和田って…誰やったんや?」

その夜、事務所の電話が鳴る。

誰も出ない。

だが留守電だけが、静かに回っていた。

「——まだ枠、空いてますよ」

白線の上は、今日も安全だ。

ただし——

そこに立っている人間が、本当に“元からいた人間”かは、誰にもわからない。

今日も1日御安全に!!!🐼

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