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2026/02/28『募集は終わらない』

最初に見たのは、

電柱に貼ってあった小さいチラシだった。

男女警備スタッフ大大大募集!!!

未経験歓迎

笑顔で見守るお仕事です

端っこに、白と黒の丸い顔。

パンダっぽいけど、目がやけに黒い。

連絡先はQRコードだけ。

電話番号はない。

その頃、俺は仕事を辞めたばかりだった。

資格もないし、貯金もあまりない。

夜勤は平気だし、警備ならできそうな気がした。

何より、時給がちょっと高すぎるくらい高い。

まあ、いいか。

俺はQRコードを読み込んだ。

⸻

画面は真っ黒。

数秒たって、文字が出る。

「こちらを見てください。」

急にカメラが起動する。

自分の顔が映る。

読み込みバーがゆっくり進む。

「適性測定中」

まだ名前も住所も入力していないのに。

ちょっと気持ち悪いな、と思ったけど、

そのまま画面は消えた。

⸻

次の日、メールが届く。

件名:採用のお知らせ

履歴書も送っていない。

面接もしていない。

本文は一行だけ。

「あなたは、ちょうど良い。」

何が?

そう思ったけど、

俺は指定された場所に行くことにした。

⸻

駅前の再開発エリア。

新しいビル。白い外壁に黒い窓枠。

入口にロゴがある。

丸い顔。

その下に書いてある。

「均衡を守る仕事です。」

なんか難しそうだけど、

警備ってそういうものかもしれない。

⸻

初出勤の日。

事務所には誰もいない。

机の上に制服が置いてある。

サイズもぴったり。

名札には俺の名前。

でも裏返すと、

知らない名前が彫ってある。

見覚えがある気がする。

でも思い出せない。

まあいいか、と胸につけた。

⸻

仕事は単純だった。

出入口に立って、

人の流れを整える。

混みそうなら止める。

空いたら流す。

それだけ。

でも、不思議なことがあった。

無線が入る。

「要観察。」

見ると、特に怪しくない人。

ただ、ちょっとだけ変。

歩き方がほんの少しズレている。

笑うタイミングが半拍遅い。

肩の高さが微妙に違う。

ほんの少しだけ。

⸻

三日目。

無線が鳴る。

「要観察:あなた。」

え?

周りを見る。

他の警備員は動かない。

みんな同じ制服。

同じ笑顔。

目の周りが、少し黒い。

ガラスに映る自分を見る。

目の下にうっすら影がある。

昨日より濃い。

丸く、囲むみたいに。

⸻

「均衡未達。」

無線が言う。

俺の立ち位置がズレているらしい。

一歩、右へ動く。

「均衡達成。」

その瞬間、

人の流れがぴたりと揃う。

エスカレーターの間隔。

歩幅。

笑うタイミング。

全部、きれいに揃う。

ちょっと怖いけど、

なんだか気持ちいい。

⸻

ある夜、監視室に呼ばれた。

モニターに街が映っている。

駅前、商店街、公園。

あちこちにパンダ警備員が立っている。

よく見ると、

どの顔も俺に似ている。

角度が少し違うだけ。

「募集は終わらない。」

後ろから声。

振り向くと、

名札の裏にあった名前の男が立っていた。

目の周りが真っ黒。

「均衡を保つには、数がいる。」

モニターの中で、

新しいチラシが貼られる。

男女警備スタッフ大大大募集

誰かがQRコードを読み込む。

カメラが起動する。

「ちょうど良い。」

また一人、選ばれる。

⸻

無線が鳴る。

「交代時刻。」

目の前に、スーツ姿の男が立っている。

少し不安そうな顔。

目の周りは、まだ白い。

少しズレている。

俺は穏やかに笑う。

左右ぴったり同じ角度で。

「大丈夫です。」

「すぐ慣れますよ。」

⸻

翌朝、街はいつも通り。

事故もトラブルもない。

白と黒の制服が、あちこちに立っている。

丸い目で、静かに見守る。

⸻

電柱には、また新しいチラシ。

あなたは、見られる側ですか?

それとも、見守る側ですか?

QRコードが、ゆっくり点滅している。

俺はそれを、

ちゃんと同じ角度で見つめている。

 

今日も1日御安全に!!!🐼

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