
パンダ警備合同会社。
朝礼。
所長が言う。
「今日の目標は――
“なんとなく安全”だ!」
拍手。
誰も真面目に聞いていない。
その中にひとり、
異様にやる気のない男がいた。
名は、小柳一豊。
通称:省エネパンダ。
片側交互通行の現場。
小柳は立っている。
誘導棒は持っている。
しかし振らない。
車が来る。
小柳は小声で言う。
「どうぞ〜……たぶん……」
声、小さすぎて聞こえない。
なのに車は止まる。
なぜか。
運転手が窓から顔を出す。
「なんか……逆らったら怒られそうで……」
小柳、何もしていない。
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そこへ主任の熱血男・林田健一が登場。(通称:健暴)
「小柳ぃぃ!!もっと元気出せぇぇ!!」
林田、全力で誘導棒を振る。
ブンブンブンブン。
左右どっちにも振る。
車が混乱する。
前の車も後ろの車も全員止まる。
現場、大渋滞。
小柳がぼそっと言う。
「……動かない方が平和ですね」
なぜか車がスッと動き出す。
林田、呆然。
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その日の夕方。
所長が評価発表。
【林田:元気すぎ減点】
【小柳:何もしてない加点】
林田が叫ぶ。
「なんでだぁぁ!」
所長が真顔で言う。
「パンダ警備は“雰囲気”で守っている」
小柳、深くうなずく。
うなずいただけで、
近くの自転車がなぜか一時停止する。
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翌日。
期待の大袈裟新人、巻村順というのが入る。
やる気満々。
「僕、全力で頑張りま〜す!!」
小柳が言う。
「うちは、頑張らないのがコツです」
新人、困惑。
「え?」
小柳、誘導棒を地面に置く。
立つ。
ただ、立つ。
車がスムーズに流れる。
新人巻村も真似する。
立つ。
流れる。
林田も立つ。
流れる。
三人で立つ。
めちゃくちゃスムーズ。
所長がつぶやく。
「これが……無の境地か……」
⸻
一週間後。
パンダ警備、社内研修テーマ。
【やらない勇気】
講師:小柳。
壇上で一言。
「立ちましょう」
全員、立つ。
それだけで拍手喝采。
理由は誰もわからない。
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パンダ警備のモットーはこうなった。
「動くな、焦るな、なんとかなる。」
今日も小柳は立っている。
働いているのかいないのか。
誰にもわからない。
でもなぜか、現場は平和。
林田だけがまだ腕を振っている。
誰にも見られていない方向へ。
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今日も1日御安全に!!!🐼