
パンダ警備合同会社の朝礼は、
だいたい静かだ。
理由は簡単だ。
誰も本気で仕事をしていないからだ。
現場は片側交互通行。
しかし誘導棒は地面に置かれ、
警備員はスマホで動画を見ている。
その中心にいるのが、
沼田(通称:寝パンダ)。
立っているだけ。
動かない。
誘導しない。
ただ、立っている。
白い腹を前に突き出し、
目は半分閉じている。
「仕事、してる?」
背後から声。
振り向くと、
主任の林田。
顔は笑っている。目は笑っていない。
「してますよ」
沼田は言う。
何を?
と、誰もが思う。
その日の午後。
本社から「特別指導」が来る。
会議室に呼ばれた沼田。
壁は白。
机も白。
椅子も白。
正面に座るのは、社長。
パンダの着ぐるみ。
口元だけが、本物の人間。
「沼田さん」
低い声。
「君は、なぜ動かないのかね」
「いや、立ってます」
「立っているだけだ」
沈黙。
社長はメモを取り出す。
【勤務評価:置物】
「置物……ですか?」
「置物は、そこにあるだけで意味がある。
君は?」
沈黙。
社長が静かに立ち上がる。
着ぐるみの頭を外す。
中から出てきたのは――
もう一枚のパンダ。
さらに外す。
またパンダ。
また。
また。
中身が、ない。
「パンダ警備とは何か、わかるかね」
社長の声は、どこからともなく響く。
「白は建前。黒は本音。
働いている“ふり”が、最大の仕事だ」
会議室の壁が回転する。
そこには――
立っているだけの警備員が、
何百人も並んでいる。
全員、微動だにしない。
「これが、理想の警備だ」
沼田の胸ポケットに、
赤い誘導棒が差し込まれる。
「動くな。
考えるな。
存在するな。
だが、給料はもらえ」
沼田は気づく。
自分の足が床に固定されていることに。
動かないのではない。
動けない。
「これが指導だ」
翌日。
現場。
沼田は立っている。
微動だにせず。
車は勝手に止まり、勝手に進む。
なぜか事故は起きない。
通行人がつぶやく。
「あの人、なんか怖いね」
主任がメモを書く。
【勤務評価:完成】
パンダ警備は、今日も安全だ。
たぶん。
今日も1日御安全に!!!🐼