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2026/03/27パンダ警備百点会②『白線に残る理由』

昼下がりの現場。

片側交互通行。

交通量はそこそこ、風は強い。

沖は、いつもの位置に立っていた。

「はい、どうぞー」

淡々と、正確に。

無駄のない誘導。

その時——

「沖さん、ですよね?」

背後から、やけに軽い声。

振り返ると、黒のマオカラースーツ姿の男。

場違いすぎる。

「……誰ですか」

男はニコッと笑う。

「金田です。大和田獏郎の下でやってます」

空気が、変わる。

「用件は一つです」

金田は一歩、白線の内側に入る。

普通なら怒るところだが、沖は何も言わない。

「あなた、ここにいる人間じゃない」

「……何を根拠に」

「誘導、綺麗すぎるんですよ」

金田は笑いながら、続ける。

「無駄がない。迷いもない。

でも——“収まってる”」

トラックが来る。

沖は一度視線を外し、誘導する。

「はい、右どうぞー」

完璧に流れる。

再び、金田を見る。

「で?」

短く返す。

「うちに来ませんか」

即答だった。

「断る」

金田は、少しだけ驚いた顔をする。

「まだ条件も言ってませんけど」

「聞く必要ない」

風が強くなる。

コーンがカタカタ揺れる。

「給料は倍。現場も選べる。

人間関係も——かなり自由です」

「自由、ね」

沖は少しだけ笑う。

「“自由に見えるだけ”やろ」

金田の目が、細くなる。

「……やっぱり、知ってるんですね」

「知ってるから断っとる」

一瞬の沈黙。

「理由、聞いても?」

沖は少し考えて、ポツッと答える。

「社長に拾われた」

それだけだった。

「どうしようもない時に、

“ここでええ”言うてくれたんがパンダや」

金田は何も言わない。

「現場もクソみたいなんある。

隊長もクセ強い。

でもな——」

遠くで、林田が怒鳴っている。

「おい沖!ぼーっとすな!」

長松はトイレに行っている。

天音は笑っている。

野高は右見たり、左見たり。

廣川も本間も淡々と仕事している。

津崎は怒っている。

磯野はニコニコしている。

梅おにぎり師匠は食べてる。

沼田は寝ている。

沖は、少しだけ口元を緩める。

「“戻る場所”があるんは、強いんや」

金田は、小さくため息をついた。

「……なるほど」

その時だった。

「いい話ですね」

背後から、もう一つの声。

低く、乾いた声。

振り向かなくても分かる。

大和田獏郎

「沖さん」

ゆっくり近づいてくる気配。

「情で仕事を選ぶ。嫌いじゃないですよ」

沖は振り返る。

真正面から、見る。

「何回言わせるんや」

獏郎は笑う。

「何回でも言わせますよ」

その一言に、圧が乗る。

空気が重くなる。

車の音すら遠く感じる。

「あなたは、こっちの人間だ」

「違うな」

即答。

「俺は“パンダ警備の人間”や」

一歩、前に出る沖。

白線の上。

「ここで立つって決めた」

獏郎の目が、ほんの少しだけ鋭くなる。

「後悔しますよ」

「せん」

「潰されますよ」

「上等や」

「それでも来ますよ?」

沖は、誘導灯をゆっくり構える。

いつもの動き。

いつもの姿勢。

「何回来ても——」

車が来る。

タイミングを見て、灯りを振る。

「止めるだけや」

沈黙。

数秒後。

風が止む。

気配が消える。

そこにはもう、誰もいなかった。

金田も、獏郎も。

林田の怒鳴り声だけが戻ってくる。

「沖ぃ!!今の誰や!」

沖は、何事もなかったように答える。

「営業や」

天音がクスッと笑う。

その日の終わり。

詰所のロッカー。

沖の制服のポケットに、紙が入っていた。

「また来ます」

— 大和田獏郎

沖は、それを見て——

無言でクシャッと潰した。

そして、いつものように言う。

「来たらええ」

白線の上で、待っている。

今日も1日御安全に!!!🐼

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