
パンダ警備の事務所は、
今日もいつも通りだった。
朝は隊員たちが集まり、
車の鍵を受け取り、
それぞれの現場へ向かう。
電話が鳴る。
予定表を確認する。
ホワイトボードには
明日の配置が並んでいる。
特別なことは何もない。
少なくとも表面上は。
だが最近、
少しだけ不思議なことが起きていた。
電話が鳴る。
「ホームページ見たんですけど。」
まただ。
警備の依頼かと思えば、そうでもない。
「なんか楽しそうな会社ですね。」
そう言われることもある。
営業の電話も増えた。
普通なら断るような話でも、
相手はなぜか少し楽しそうに話してくる。
「いやあ、一度お話ししたかったんです。」
こちらは警備会社である。
動物園ではない。
ましてやテーマパークでもない。
それなのに、なぜか人が寄ってくる。
ある日など、本当に近くを通ったからという理由だけで事務所を見に来た人がいた。
「パンダ警備って本当にあるんですね。」
失礼な話である。
しかし誰も怒らなかった。
むしろ全員が笑った。
ホームページには警備の話が書いてある。
真面目な仕事の話も書いてある。
それなのに、どこか違うものを
感じ取って来る人がいる。
たぶん、それは会社の温度なのだ。
数字では測れない。
売上表にも出てこない。
だけど確かに存在する。
気が付けば、静かなファンのような人たちが少しずつ増えていた。
大勢ではない。
行列ができるわけでもない。
SNSで何万回も再生されるわけでもない。
ただホームページを時々見ている。
たまに電話をくれる。
たまたま近くを通ると事務所を思い出す。
そんな人たちだ。
「ホームページ見ました。」
その一言から始まる縁がある。
理由を聞けば、みんな少し困った顔をする。
そして最後にはだいたい同じ答えになる。
「なんか気になりまして。」
夜になり、事務所の灯りが消える。
誰もいなくなった静かな部屋に、
パンダのロゴだけが残る。
明日もまた電話が鳴るだろう。
「ホームページ見たんですけど。」
受話器を取る、
いつも通りの声で答える。
だけど心のどこかで思っている。
ああ、また一人。
静かなファンが増えたのかもしれない、と。
どうやらパンダ警備には、
気が付かないうちに常連客ならぬ常連ファンが住み着いているらしい。
しかも本人たちは、自分がファンだという自覚すらないのである。
今日も1日御安全に!!!🐼