
休日だった。
林田は近所のスーパー「今日でぇ〜?」で買い物をしていた。
カゴの中には、カップ麺、半額シールの貼られた惣菜。お菓子。グミ。
平和な昼下がり。
そのはずだった。
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「クククッ相変わらず安いものを選ぶな」
背後から声がした。
林田の顔が曇る。
振り向く。
黒いマオカラースーツ。
休日のスーパーにまったく似合わない男。
大和田獏郎だった。
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「……お前か」
「久しぶりだな林田…クックックックック」
獏郎のカゴには何も入っていない。
買い物に来たわけではない。
最初から林田を見ていたような目だった。
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「何の用や」
「別に」
獏郎は牛乳売り場を眺めながら言った。
「ただ、パンダ警備の話を思い出してな」
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林田は嫌な予感しかしなかった。
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「クククッ面白い会社だ」
獏郎は笑った。
だが目は笑っていない。
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「壊れかけた人間が、壊れかけた人間を支えている」
「効率は悪い」
「利益も薄い」
「経営としては最低だ」
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林田の眉が動く。
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「それでも現場は回っとる」
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ヌフっと獏郎は首を傾けた。
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「回っている?バハハハハ」
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まわりに聞こえるように笑う。
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「違う」
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「倒れないように支えているだけだ」
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惣菜コーナーの蛍光灯がやけに白かった。
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「今谷は不安定」
「長松は焦りやすい」
「天音は何を考えているか分からない」
「沖は抱え込みすぎる」
「野高は方向音痴」
「津崎はキレやすい」
「沼田は寝てるだけ」
「本間は資格証を首から紐でぶら下げているだけ」
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一人一人の名前を挙げる。
まるで商品を評価するように。
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「そしてお前だ林田クックックックック」
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獏郎はまっすぐ見た。
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「お前は全員を背負おうとする」
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「だから一番壊れやすい」
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林田は黙る。
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獏郎は続けた。
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「会社というのはな」
「壊れた部品は交換する」
「使える部品は残す」
「それだけだ」
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林田の手がカゴを強く握る。
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「人間やぞ」
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獏郎は即答した。
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「会社の中では違う」
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沈黙。
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スーパーのBGMだけが流れている。
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「お前らは勘違いしている」
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獏郎は言った。
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「仲間だの絆だの言うが」
「事故が起きれば責任者を探す」
「赤字になれば人を切る」
「会社なんて最後はそういうものだ」
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冷たい声だった。
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林田は吐き捨てる。
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「だからお前には誰もついてこん」
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獏郎は少しだけ笑った。
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「違う」
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「ついてくる必要がない」
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「結果だけ残ればいい」
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その言葉に寒気が走った。
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人ではなく数字。
仲間ではなく結果。
獏郎の世界にはそれしかない。
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去り際。
獏郎は半額シールの惣菜を見た。
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「それ、買うのか」
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「ああ」
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「そうか」
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そして小さく呟いた。
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「お前は昔から捨てられん」
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林田が顔を上げる。
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獏郎は背を向けていた。
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「ブハハハハ…だからお前は戦力外なんだよ」
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そのまま人混みに消えた。
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スーパーには何も起きていない。
客も買い物を続けている。
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だが林田だけは動けなかった。
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カゴの中の半額惣菜を見ながら、
小さく呟く。
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「……それでも捨てんわ」
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誰にも聞こえない声だった。
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今日も1日御安全に!!!🐼