
大和田獏郎が再び現れたのは、
昼下がりだった。
現場は片側交互通行。
いつも通り、どうでもいい時間。
突然のにわか雨が激しく不気味に通り過ぎた。
止み終わったその直後だった、、。
まだ辺りは異常なくらいに暗い…。
「クククククッ……お疲れ様です」
振り向いた林田は、
一瞬だけ固まった。
「……お前か」
黒いマオカラースーツ。
ピカピカのエナメル靴。
そして、いつもと変わらない無表情。
大和田獏郎。
周りの隊員たちは、妙に静かになった。
天音だけが、なぜか笑っている。
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「今日は勧誘じゃない」
獏郎は、そう言った。
「……じゃあ何しに来た」
林田は、いつもの強気で返す。
だが、ほんの少しだけ声が硬い。
獏郎はポケットからタバコを出しかけて、やめた。
現場ルールを守っている。
それが逆に不気味だった。
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「クククッお前を引き抜かなかった理由を、教えに来た」
その一言で、
空気が変わった。
野高が小さく「えっ」と声を漏らし、
廣川は旗を落としかけた。
林田は笑った。
「はは、やっと評価か。遅いんじゃないか?」
獏郎は、即答した。
「違う。クククッ評価はとっくに終わっている」
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沈黙。
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「結論から言う」
獏郎の目は、一切ブレない。
「クククッ林田、お前だけは戦力外だ」
「お前とは会った時から最初から戦力と
して見ていないがな。ククク…。」
「お前は使いものにならないんだよ」
「アハハハハハハハ!!」
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誰も動けなかった。
風の音だけが、やけに大きい。
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「……理由は?」
林田の声は、思ったより落ち着いていた。
怒りでもなく、焦りでもなく、
ただ確認するような声。
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「三つある」
獏郎は指を一本立てた。
「一つ。感情で動く」
二本目。
「二つ。無駄に現場に残る」
三本目。
「三つ。仲間を捨てられない」
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林田は、笑った。
「それの何が悪いんや!大和田!!」
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獏郎は少しだけ間を置いた。
「全部だ」
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野高が、息を呑む。
沼田は、珍しく起きている。
天音は、ずっと笑っている。
梅おにぎり師匠はおにぎりを食べ続けている。
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「俺の会社に必要なのは、交換できる人間だ」
「壊れたら替える。迷わない。止まらない」
「お前は違う」
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林田の目が、ほんの少しだけ細くなる。
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「お前は、止まる」
「誰かのために」
「意味もなく」
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沈黙。
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そのとき、無線が鳴った。
「はい、林田です」
いつもの声。
何も変わらない声。
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「了解、送ります。」
旗を上げる。
車がゆっくり動き出す。
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獏郎は、それを見ていた。
じっと。
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「クククッ……だからだ」
小さく、呟く。
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林田は振り返らない。
「用件それだけか?」
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「終わりだ」
「安心しろ。クククッ…最初からお前は数には入れていない。」
「お前ぐらいはいくらでもいる。」
「無限にな。ブハハハハ。」
「ククク……林田。」
「次に会う頃には、もっと静かになってるだろうな。ケヒッ…。ケヒヒヒヒ…。」
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獏郎は背を向けた。
去り際、天音の横を通る。
天音は、くすっと笑って言った。
「ねぇ、獏郎さん」
足が止まる。
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「それ、“戦力外”じゃなくてさ」
少しだけ首を傾けて、
「一番厄介って意味でしょ?」
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獏郎は答えなかった。
だが、ほんの一瞬だけ、
口元が動いた。
「ンフ……。」
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去っていく背中。
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林田は、最後まで振り返らなかった。
ただ、旗を振りながら、
小さく呟いた。
「……上等や」
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車の流れは、止まらない。
白線の上に、立ち続ける男がいる。
今日も1日御安全に!!!🐼